ここは中川信子のホームページです。ことばの発達や障害について、
また、言語聴覚士に関連するさまざまな情報を配信していく予定です。

「そらとも」は「この空のもと、いたるところに、志を同じくする友あり」という意味です。
疲れて、ひとりぽっちと思えるときには、空を見あげ、胸いっぱいに元気を補給しましょう。
その曲がり角の先には、きっと新しい出会いと、すばらしいできごとが待っています。


           朝日新聞の生活面に日曜日、毎週ではありませんが、
          「育児ファイル」という小さな記事が載ります。
           5、6回シリーズでいろいろなテーマが取り上げられます。
         
私は「ことば」をテーマに、平成18年に登場しました。
   担当者の了解を得て、ホームページに掲載します。
   不安解消のお役に立てば幸いです。

第1回 うちの子、遅いかな?         20061015日掲載

第2回 赤ちゃん「アプゥ」、自分も「アプゥ」 20061022日掲載

第3回 赤ちゃんことばの秘密         2006115日掲載

第4回 英語ビデオ漬け 気をつけて       20061112日掲載  

第5回 ことば育ては、からだ育てから      20061119日掲載

第6回 サポートの見つけ方          2006123日掲載

朝日新聞育児ファイル「ことば」  第1回 20061015日掲載

うちの子、遅いかな?

 「うちの子、ことばが遅いんです」。そんな不安でいっぱいのお母さんたちの相談に、約20年かかわっています。言語聴覚士(ST)はことばの障害に取り組む専門家。成人対象に仕事をする人の方が多いのですが、私は一歳半健診後のことばの相談を長くやってきました。

 ここ数年、子どものことばやコミュニケーションをめぐる親御さんの不安がどんどん大きくなっている、と感じます。「ふつうにしていればいい」と言っても、「ふつうってどうすればいいんですか?」と戸惑う方たちも多いのです。

 ことばの育ち方は人それぞれ。10カ月くらいからお話を始める子もいれば、2歳半ころまで「アー」「ウー」しか言わなかったのに、突然ぺらぺらしゃべり出す子もいます。

 でも、親としてはマニュアル通り「1歳ころに『ママ』など意味のあることば、2歳ころは『ママおいで』などの二語文を使い始める」ようにならないと、心配になるんですよね。

 もちろん、障害の可能性もないとはいえません。でも、ことばが少々遅くてもあまり心配せず、遅咲きの花を楽しみに待つ気分でつきあうことを勧めます。ぐっすり寝て、元気に遊び、おいしいものを食べる。そういうことが全部、言葉の発達の基礎になっているのです。この連載では、ことばが育つ過程での心配ごとについて書いていきます。

朝日新聞 育児ファイル「ことば」 第2回  20061022日掲載

赤ちゃん「アプゥ」、自分も「アプゥ」

 赤ちゃんは周りのおとなのことばを聞いて、ことばを覚えます。「ことばかけが大事」と言われるのはそのためです。

 でも、意外に多くの親ごさんたちが「実際どんなふうにしたらいいの?」「赤ちゃん相手に話しかけるのって難しい」と悩んでいます。そんな方たちにいくつかのヒントをお伝えしましょう。

 まずは「赤ちゃんの出す音や声をまねること」です。赤ちゃんが「アプゥ」といったら自分も「アプゥ」とマネします。自分が出したのと同じ音をおとなが返してくれることで赤ちゃんは張り切ってたくさん声を出すようになります。

 次は、「赤ちゃんのやっていることや赤ちゃんの気持ちを代わりにことばで言う」こと。おいしそうな顔をしていたら「おいしいね」、自分でお口のまわりを拭いていたら「ごしごし、きれいきれい」という具合です。

お風呂の用意をしながら「タオルどこだっけ」、着替えさせ終わったときに「はい、できました!」と自然に言っていませんか?

このように「大人が自分のしていることを口に出していう」こともりっぱなことばかけの一つです。

 食事やオムツ替え、お風呂など、赤ちゃんの世話をする時に、あれこれ題材を見つけてみませんか。

また「おはよう」「いただきます」「ありがとう」「バイバイ」などのあいさつことばは、状況とマッチしているので覚えやすいもの。おとなが意識的にあいさつを交わすことも、赤ちゃんにとって、大事なことばの学習の機会になります。

朝日新聞育児ファイル「ことば」  第3回 2006115日掲載

赤ちゃんことばの秘密

 あの子は2歳前でもう「デンシャ」って言うのに、うちの子はまだ「デンチャ」。自動車は「ブーブ」。私が「ほんとだ、ブーブ来たね」なんて赤ちゃんことばで話しかけるのがいけないのかしら・・・・・。

  1歳から3歳にかけて、お話しできるようになると、今度は発音が心配になる親御さんも少なくありません。そんなとき、私はこう言います。「田大人になるまでには、たいてい正しい発音が身につきます。この時期の早い遅いはあまり心配いりませんよ」って。

 ことばを話すときには、唇やあご、舌などを、実に複雑な操作で動かすのですが、赤ちゃんはまだ舌先を思い通りに動かせません。聞き取る力も未熟です。発音がはっきりしなかったり、赤ちゃんことばになったりするのはそのため。

 わりあい発音しやすいのはマ行、バ行、パ行、タ行。ですから「ブーブ」「マンマ」「パパ」「ポッポ」などのことばが先に出てきやすいのです。

 日本語五十音が発音できるようになる大まかな目安は4歳半くらい。サ行、ザ行、ラ行は発音動作が一段と難しく、さらに習得ま時間がかかる子もいます。

 「ワンワン」「ニャーニャ」「ポンポン」などの繰り返しも、赤ちゃんことばの特徴ですが、実はこれが、聞き取りやすく言いやすい、まさに赤ちゃん専用のことばなのです。 

 今しか使えない赤ちゃんことば。たくさん使ってあげてください。無理に正しい大人用の日本語で話しかける必要はありません。気持ちを通い合わせるうちに赤ちゃんことば「卒業」です。さみしくなりますよ。

朝日新聞育児ファイル「ことば」 第4回  20061112日掲載  


英語ビデオ漬け 気をつけて

  
 
赤ちゃんのときから英語にふれさせておけば、将来英語に困らない? 英語ビデオ教材の使い方で心揺れる親ごさんも多いようですね。
 
でも、ちょっとここで考えてみて下さい。2歳でリンゴを「アプゥ」と言えたとしても、それが必ずしも将来の英語力を保障するわけではありません。
 
また、因果関係を証明できてはいませんが、「ことばが遅くて心配」と相談に来られる2歳くらいのお子さんが、赤ちゃんのときから英語教材のビデオ漬けだった、という例を少数ながら見聞きすることがあります。そうした過熱ぶりがちょっと気がかりです。
 
赤ちゃんがどんなふうにことばを学んでいくのかは、実は、まだわからないことだらけです。 
 ただし、子どものことばの発達を
20年近くみてきた立場から言えるのは、ことばはテレビやビデオからではなく、生身の人間との実際のやりとりを通じて身についてゆく、ということです。また、子ども自身に準備が出来ていないうちに無理に教えるのは望ましくないということも、ほかの言語聴覚士たちと共通する意見です。
 
 英単語を覚える前に育てておくべき力があります。それは人と気持ちを通わせコミュニケーションできること、表現したい内容がしっかりしていること、です。
 
いくつかの単語をつなげて、自分の気持ちを伝えられるようになってから英語に触れるのはいいとしても、まだおしゃべりできない赤ちゃんの時代から、英語ビデオかけっぱなしという状態は控えたいものです。 
 英語は、親子のかかわりの一つの糸口だ、程度に考えておくといいでしょう。

朝日育児ファイル 「ことば」  第5回 20061119日掲載

ことば育ては、からだ育てから

 「ことば育ては、まずからだ育てから」って何のことでしょうか?

 ことばは、舌や唇を動かして発音します。でも、舌や唇が自分から勝手に動くのではありません。脳が、「何を言うか」「そのことばを発音するには口や唇をどう動かすか」など細かく指令を出してくれているから、発音できるのです。

 ことばを直接つかさどるのは大脳。でもそれ以外にも体の動き、こころの動きに関係する脳があり、全部が連係して初めてことばが話せるのです。

 大脳は、鏡餅の一番上にのっている橙(ダイダイ)。体の脳が下段のお餅、心の脳が上の段のお餅と想像してみてください。

 ことばがじょうずに話せるような大脳、つまり、りっぱな橙がのるためには、下の二段のお餅が大きく育ち、しっかり固まっていなければなりません。

 ことばの育ちだけに気を取られて「リンゴよ、リンゴ」「バイバイって言ってごらん」などと教えても、まだ橙を乗せる準備ができていない時には成果があがりません。

 早寝早起きをこころがけ、栄養バランスのとれた食事をし、楽しく遊ぶこと。子どもにとって当たり前のこういう生活こそが、ことばや知力の基礎をつくり、二段のお餅をしっかり育てるのです。中でも体全体を使う遊びは、子どもの育ちに大事な意味を持っています。

特別な運動でなくていいのです。おなかや背中をこちょこちょくすぐって遊んだり、公園で「よーいどん!」って一緒に走ったり、踏切に大好きな電車を見に行ったり。今日からできそうなこと、してみませんか?

朝日育児ファイル「ことば」 第6回  2006123日掲載

サポートの見つけ方

 子どもの遅い子をもつ親御さんで、ママ友達やお医者さんに「ことばかけが足りないんじゃないの?」「もっと遊んであげなさい」などと言われたことのある人は少なくありません。本人は精一杯やっているつもりなので、そんなふうに言われるとつらい思いがつのります。

 こんな時に相談したいのがことばの専門家、言語聴覚士(ST)ですが、その数はまだ少ないうえ、自治体の予算も限られていて、配置が進みません。

ですから、現状では保健師さんに相談するのが早道。保健師は、全国で乳幼児健康診査(健診)を担当し、心配事の相談に乗ります。「遊びの教室」や「フォロー教室」で対応しているところもあります。

 健診に心理相談員が参加し、保健師と協力してことばを含めた全体発達についての相談に乗ってくれる自治体も少なくありませんが、その後のフォローの制度は地域差が大きいのが現実です。また、保健師、心理相談員、言語聴覚士はいずれも専門家ですが、それぞれ得意不得意があり、相談しても、対応に満足できない場合もあるでしょう。

 でも、一人で悩まないで。ことばの遅い子を持つ親たちが、本音を打ち明けられるバもあります。そんな文集「言の葉通信」を16年間発行してきた親たちのグループは、2年前にNPO法人「ことのはサポート」を設立。私たちSTと協力して悩める親子の支援体制を作ろうとしています。

抱えこまず、いろいろな人の助けを求めていきましょう。

    ◆◆ NPO法人「ことのはサポート」
      
http://blogs.dion.ne.jp/kotonoha_support/

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「そらとも」は「この空のもと、いたるところに、志を同じくする友あり」という意味です。

疲れて、ひとりぽっちと思えるときには、空を見あげ、胸いっぱいに元気を補給しましょう。
その曲がり角の先には、きっと新しい出会いと、すばらしいできごとが待っています。

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