ここは中川信子のホームページです。ことばの発達や障害について、
また、言語聴覚士に関連するさまざまな情報を配信していく予定です。

「そらとも」は「この空のもと、いたるところに、志を同じくする友あり」という意味です。
疲れて、ひとりぽっちと思えるときには、空を見あげ、胸いっぱいに元気を補給しましょう。
その曲がり角の先には、きっと新しい出会いと、すばらしいできごとが待っています。

教育医事新聞の2015年3月25日号に、「子どもの発達支援を考えるSTの会」のことが取り上げられました。

子どもSTの会 (3月25日 教育医事新聞).JPG

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言語聴覚士(ST)とは

言語聴覚士(SpeechLanguageHearing Therapist)は平成9年に厚生労働省管轄で国家資格が成立したことばにかかわる専門職です。

通称のSTSpeech  Therapist の略です。従来は言語療法士とか聴能言語士などと呼ばれていました。

 養成校は20084月現在61校あり (日本言語聴覚士協会HPより) 

  http://www.jaslht.gr.jp/school_list.html

毎年1000人を越える有資格者が誕生しています。平成20年第10回試験の 合格者

1700人を加えると、208月現在のST有資格者は13000人強です。

  STはPT(理学療法士)OT(作業療法士)とともに「リハビリテーションの3職種」といわれます。脳血管障害による失語症などの障害の改善をめざすリハビリテーション医療の分野で働くことが最も一般的です。

日本言語聴覚士協会ホームページ 

 なお、国家資格成立後5年間の移行措置の時期にたまたま海外に在住していたり、出産・子育てと重なって試験が受けられなかった方、また、子どもの領域での経験が長く実力も十分あるにもかかわらず問題には成人の医療分野の出題の割合が多いために国家試験に不合格となった方たちも少なからずいます。

「言語聴覚士」を名乗らないSTもおられるというわけです

ちなみに、国家資格の有資格者を「RST」(R=registered)と呼びます。

STはどこにいるのでしょう?

日本言語聴覚士協会の2004年の調査では医療機関勤務のSTが会員の70%でした。高齢者の介護施設等は5%ですが、摂食嚥下が業務の中に組み入れられたことから、配置が急激に拡大しています。福祉分野には11%、特殊教育などの分野には3%程度です。

 ≪図1≫STの配置 

 成人対象の人が65%、小児対象は38%です。小児対象と回答した人の中には、病院で成人の訓練を担当するかたわら、口蓋裂や難聴のお子さん、あるいはことばの遅れをともなう障害のあるお子さんを受け入れているという場合も多いと推測されます。

 STのいる福祉関連機関は、各自治体が設けている障害のある子どものための収容施設や療育通園施設、「○○福祉センター」「△△療育センター」のような相談機関等です。

子どものST

療育や相談の場では「言語訓練」のあり方も医療機関とは少しちがっています。いわゆる机上での訓練・指導ばかりではなく、療育のクラスに参加して保育士さんたちと一緒に指導にあたるとか、遊びの中でことばやコミュニケーションを伸ばすようなかかわり方の工夫を保護者に伝えたりもします。

また、幼稚園や保育園や学校などを訪問して、お子さんの保育や教育にあたる先生方へのアドバイスを行うなど、実にいろいろな働き方のバラエティがあります。

また、あまり知られていないことですが、全国の学校に設置されている通級制の「ことばの教室」「きこえの教室」「通級指導教室」の教員も、STと同様の仕事をしています。通級とは、通常学級に籍を置き、週の何時間かを「ことばの教室」に通って専門的・個別的指導を受けるという制度。文部科学省で進められている「特別支援教育」の中でも、大きな期待がよせられている存在です。

全国公立学校難聴言語障害教育研究協議会ホームページ

「ことばの教室」の対象は主として学童ですが、就学前の幼児を受け入れる「幼児ことばの教室」が併設されていることもあります。また、市町村が独自に幼児対象の「幼児ことばの教室」を設置している場合もあります。“障害”のイメージを薄めて通いやすくするために「ことばの教室」を幼稚園や保育園に併設している自治体もあり、そのスタイルはさまざまです。

STであれ「ことばの教室」の先生であれ、ことばの専門家による定期的な相談・指導を受けるようになった親ごさんの多くは「ほっとした」「この子なりの成長を見守って行きたい」と言ってくださるようになり、望ましい親子関係が作られてゆくことが多いのです。

子どものことばのことを気軽に相談できる場は圧倒的に足りない 
 
医療機関や老健施設にSTの配属が進んできたのはSTが保険診療の対象として収入が保障されるようになってきたのが大きな要因です。一方、子どものことばの相談の場が少ないのは、法的な保障がなく、自治体が財政を負担しなければ設置できないことも大きな理由のひとつでしょう。
 
一般の育児雑誌では、「ことばの発達をうながすかかわり方」といったテーマの特集がたびたび行われます。また、ことばが遅いのではないかと心配している1,2.3歳児の親ごさんは世の中に少なくありません。そんな親ごさんから「気軽に相談できる先はないでしょうか」という質問をよく受けます。「○○療育センターにはSTがいますけど・・・・」と答えながらも、そういう場所は敷居が高すぎて、親ごさんは、なかなか行きづらいだろうな、と申し訳なく思います。 
 発達のようすには個人差が大きく、ましてや1,2,3歳くらいの発達初期の個人差は非常に大きいからです。このころの「ことばの遅さ」は非常に微妙で、経験のある人が見れば障害の要素があるとはっきり見極められることもあれば、ベテランの専門家が見ても、しばらく経過を見ていかないとよく分からないということも多いからです。「3歳まで話さなかった」という逸話を持つ大人の人も結構いるのです。
 

健診にかかわるSTが少しずつ増えていますが問題もないではありません 

 そんな中、各地の健診事業にかかわるSTも少しずつふえています。自治体がSTの必要性を理解して予算をつけてくれる場合に限定されての実現です。
 
親ごさんの気持ちを受け止めつつ、お子さんの状態を的確に把握し、必要なかかわり方のアドバイスもできるようなSTが参加する健診や事後フォロー事業はとても好評です。
 
一方、せっかくSTを導入したけれど、いきなり子どもを検査して能力を断定したり、親ごさんの役に立つアドバイスはちっともしてくれない、との不評もあります。
 
これにはST内部の問題もからんでいます。ST養成校では、脳の構造や障害別の言語訓練方法を学ぶだけでせいいっぱい。子ども、とくに乳幼児期の言語・コミュニケーション発達についての勉強があまりできないまま卒業してくる若きSTがとても多いのです。
発達初期の子どもとその親を支えられるSTがほしいものです  

日本のSTの団体である日本言語聴覚士協会(●前出)も、小児の言語発達支援の大切さを認識しており、組織としての模索が続けられています。
 
また、各地に個人開業するSTもちらほら出ており、相談先は少しずつ増えています。もちろん、個人開業の場合は、有料になるのでどなたでも利用できるというわけには行かないのが苦しいところです。
 
6年前に私と何人かの仲間で立ち上げた「子どもの発達支援を考えるSTの会」 http://www.kodomost.com/   はST限定のクローズドの団体ですが、研修会を実施したり、メール上での情報交換を行ったりして、子どものすこやかな発達を支援し、不安の多い時期の親を支えるということについての知識や経験を広げてゆくことを願って活動を続けてきました。健診にかかわるSTとして必要な視点や資質を育てるため、ST内部での講習会やセミナーなどもいずれ計画していきたいと考えていますが、まだ、実行には移せていません。

子どもの発達支援――STの仕事の内容 

 STは子育てのよき応援団になれます 

健診や、子育て支援にかかわるSTに求められるのは“障害探し”ではなく“健全な子育ての応援”です。でも、そのためには“障害のある子どものことから入って来た”というSTの立場がとても大切だと私は感じています。子育て支援に今求められている内容と大きくかかわっているからです。

障害を持つ子どもたちの療育の分野でよく言われることばに「療育は注意深く配慮された子育てである」があります。

子育てはすべての子どもに共通。発達をうながすやり方、望ましい育て方も共通です。障害やその可能性のある子どもの子育ては何か特別なものではなく、通常の子の子育てをより細かくスモールステップに分け、子どもの気持ちに寄り添いながら丁寧に支えるという取り組みが必要である、という意味です。

障害のある子どもの分野では、子どもはひとりひとりがとてもちがう特性を持っているとして、個別的な見方が強調されてきました。みんな一緒に、むりやりやらせるといったやり方で育てられた子どもたちは、成人してから充実した人生を送ることが難しい、という実例がたくさんあるからです。

療育が重ねてきた「丁寧な子育て」の豊かな蓄積や、「ひとりずつを大切に見てゆく」「子どもの姿に寄り添ってゆく」という思想が今ほど子育てに必要とされている時代はないと思います。今こそSTの出番と思うのです。

育児不安の軽減・楽しい子育て・虐待予防の観点にもつながって 

虐待にいたる過程を示すためによく紹介される図があります。

≪図3≫ 徳永雅子さん作図をもとに改変 

それを見ると健康群―育児不安群―虐待予備軍―虐待群と進んでゆくことが示されています。

育児不安は、もともと心配性な親ごさんの取り越し苦労のこともありますが、子どもが育てにくかったり、発育発達に関する心配ごとが原因となることも少なくありません。

育児不安を引き起こす要因の中で「ほかの子に比べてことばが遅い」「発達が遅いのではないか」との心配は大きな比重を示しています。健診の場では「チェックされる」事を警戒して「心配していません!」と逃げ帰った親ごさんが、地元の子育て支援センター等のスタッフに相談を持ちかけるのもよくある話。

こういう場所にこそSTがいてほしい、と私は考えるのです。ことばやコミュニケーションの発達について「お子さんは今こういう状態」と実証的に説明した上で「こういう遊びやかかわりをしてみてはどうでしょう? ほら、遊べるからうれしそうなお顔になったでしょ?」と具体的に提案できるからです。

「お母さん、あなたががんばって努力してごらんなさい」とプレッシャーをかけたり、「ことばかけをふやしましょう」などの超一般的なアドバイスは今どきの不安な親ごさんにはあまり役に立たないと思うのです。

発達上の不安や、ことばが遅いという心配がふくれ上がる前に、STが気軽にことばや発達に関する相談に応じてくれる仕組みを作ることで、育児不安群を減らし、間接的に虐待予備軍への移行をくいとめ、育児を楽しめる親ごさんの割合を増やしていくこともできるのではないでしょうか。

今後に向かって 

子どもにかかわるSTはまだ少数であり、健診や子育て支援に関わっている人はさらに少数です。が、これからは、より多くの親子に目を向け、手をさしのべてゆく必要があります。健診にSTが参加しやすくなる仕組みづくり、気軽に相談できる場の増加、STの子育て支援的な面での資質の向上・・・。課題は山積みですが、いろいろな方たちのご協力を得て、未来をになう子どもたちのすこやかな発達のための一翼をになうSTという職種を作り上げて行きたいと考えています。

「親と専門家は子どものすこやかな成長を共に喜び合う仲間です」を旗印に、親ごさんと専門家がじょうずに手を結んで、STの活動の範囲を広げてゆきたいと思っています。

子どものことばが心配な方にオススメの本

■「1,2,3歳ことばの遅い子」ぶどう社

■「ことばが伸びるじょうずな子育て」

家族計画協会  販売 エスコアール

     「語りかけ育児」小学館

     「はじめて出会う育児の百科」小学館

     「ことばの遅れのすべてがわかる本」 講談社

(詳しくは中川信子著作一覧をごらんください)

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