2012年08月18日

アスペルガー症候群 ことばの援助

 

題  アスペルガー症候群   ことばの援助
       
別冊「発達」30号  2009年8月 

 

◆◆アスペルガー症候群の人たちの混乱と不安

 

◆「子永久低位?」 

「子永久低位?」 携帯メールの受信画面にこう表示されたので、私はうろたえました。あれこれ考えた結果「っ」の入力もれかもしれないと思いつき、早速相手に確かめるとその通りだとのこと。一件落着したものの、そのあとしばらくはこのできごとについて考えていました。アスペルガー症候群も含めて、自閉症の人たちにとっての日常はこんな具合なのかもしれない、と感じたからです。

「来週の講演会に誘われているのだけど、行く?」と送ったメールに「子永久低位?」という返事が来るような日々。何が起こっているのか、何が話されているのかがつかめない不安と混乱の連続は、想像の範囲を超えた試練です。彼女の返事は「断わっていい?」だったのですが。

「どこに? いつ? 何しに?」

行楽地に向かう特急電車の中でのこと。3歳後半くらいの坊やとお父さん、お母さんが通路をはさんで隣の座席に坐っていました。坊やは落ち着かないようすで、「これからどこ行くの?」「何時につくの?」「何しに行くの?」「これ、何ていう電車?」と立て続けに質問しています。甲高くはないけれど、少々抑揚の乏しい話し方で、何度も何度も。お父さんもお母さんも、そのつど質問に答えます。合間で、お菓子を与えて黙らせることもありつつ、「さっきも言ったでしょ!」とか「何回聞くの!」と言いたくなるにちがいないような場面でも根気づよく答えてあげていました。

一方、坊やはというと、説明してもらって、通常であれば「ふーん」と言うであろう場面でも全くうなずくことなく、次の瞬間には次の質問を繰り出します。お父さんが坊やからの質問に「K特急だよ」と答えているまさにその瞬間、車窓から見えた別の電車に反応して「あ、○○型だ!」と大きな声で言う、という具合。質問しても、その答を知りたいわけではなく、「ただ単に聞いているだけ」なんだな、と分かるような態度。語彙は豊富で、もう文字も覚えているらしい坊やのそんな博学さ、利発さをご両親は誇らしく思っているようすに見えました。

多弁だけれど内容に乏しく、双方向のコミュニケーションの成立しづらさから言って、多分、なんらかの困難を持つお子さんではないかと思われました。ご両親がもてあましたり、困ったりしていないようすなので胸をなでおろしつつも、「絵カードなどで、行く先や電車の名前を示しておいてあげたらどうでしょう?坊やは不安にならずにすむし、ご両親は質問ぜめから解放されるかもしれませんよ」と提案し、「お子さんのこと、どこかに相談していらっしゃいますか?」とたずねたい気持ちを抑えるのが大変でした。

 

支援、援助は理解から  ことばのしくみ  

アスペルガー症候群や高機能自閉症と言われる子どもたちは一見利発で、しゃべりすぎるほどのおしゃべりであることが多く、「ことば」の面での困り感や不安があるようには見えません。でも彼らは、本当は心の中にある山ほどの不安や困りごととひとりぽっちで闘っている子どもたちなのだと思います。成長してゆく彼らには「毎日大変だね。君が安心して暮らせるように、一緒に考えよう。横にいるよ、お手伝いするからね」というスタンスで接する人の存在が何より必要です。

援助のためには、相手が置かれている立場への想像力と理解が必要です。まずは、「ことば」についての基本的なことをおさらいしてみます。
 

「ことば」の持つ三つの意味を水鉄砲にたとえると  

 「ことば」ということばには、三つの意味が含まれています。
@言えることば   Aわかることば   B伝えたい気持ち(コミュニケーション意欲)

ことばを水鉄砲にたとえてみると、水鉄砲の口から水が出る(=ことばを言う)ためには、タンクに水が入っている(=わかっていることがらやことばがある)ことが必要ですが、何より大事なのは、引き金を引く(=人に伝えようとする)パワーを育てること。

これは障害のあるなしに関係ないコミュニケーション発達の鉄則であり、ことばの面でとてもユニークな様相を示すアスペルガー症候群のお子さんたちにもあてはまります。

◆「ことば」の仕組み

 「ことば」の仕組みは 

@ことば(音)を聞く
A聞いたことばを理解する  
Bあたま(脳)の中で考える 
C考え(答え)に見合った内容にあてはまることばを探しだす 
Dそのことばを音に置き換える 
E舌や唇を用いて発音する

といった複雑なプロセスをたどります。そのプロセスのいずれにも大脳左半球の言語を担当する部位(言語野)が関わっています。ことばやコミュニケーションの発達とは、大脳の言語野が機能するようになることです。

ところが、大脳の言語野だけを選択的にどんどん育てる方法は残念ながらありません。脳の構造を模式的に考えると(◆)大脳は脳の一番上の部分です。原始生物からヒトに至る進化の過程で最後に上に積み上げられたからからです。大脳は表面にぎっしり並んだ豆電球に電線がつながっているような構造と考えてみてください。

大脳の下には、「大脳辺縁系」と「脳幹」という二つの部分があり、どちらも、電線の束が通っています。大脳辺縁系は心の働きと関係があり、脳幹はからだの働きをつかさどっています。この三つが合わさって「脳」を形づくっています。

「ことばの働きが育つ」とは、大脳の言語野の部分にセットされている電球がたくさん明るく光る状態なのですが、そのためには体や目、耳、皮膚などの感覚受容器からの情報(刺激)が電線を伝わって電球にまでスムーズに流れ込んでくる必要があります。言いかえると大脳辺縁系や脳幹を走っている電線が、電気をよく通す状態にしてあげないと、大脳の言語の場所は働いてくれないのです。

そのために必要なことというと、体が健康で、こころが安定している状態を基礎に、まわりの大人たちが適切なことばかけや働きかけをしてくれるような望ましい環境を作り出すことに尽きます。その見取り図(■ことばのビル■)を示します。

堅固なことばのビルが建つように、毎日の暮らしの中でていねいに働きかけることが、通常の子どもたちに大切なのと同じようにアスペルガー症候群の子どもたちにも大切なことなのです。

 

●    アスペルガー症候群の子どもたち

成長時期ごとのことばとコミュニケーションの風変わりさ

 次に、アスペルガー症候群の子どもたちのことばとコミュニケーションの特徴をお話ししていきましょう。
もっとも、アスペルガー症候群と一口に言っても、一人ずつがとても個性的で、ことばやコミュニケーションの状況も大きく異なります。

赤ちゃんの時期の気づきは、親ごさんによって違います。後から振りかえって見て「そういえば、視線が合いにくかった」「抱っこしていてもどこを見ているのかよく分からなかった」ことに思い当たる方もあれば、逆に「よく目を合わせてくる笑顔のかわいい子だった」場合もあります。「おとなしくて手がかからない」「カンが強くて育てにくかった」の両方ともを聞きます。

「自閉症と共通する特徴を持つが、ことばに遅れがない・・・」とされるアスペルガーのお子さんたちですが、ことばにも、コミュニケーションの質にもある種の違和感がつきまといます。その違和感は実は1歳前からすでに始まっているのですが、2歳3歳にかけて強まります。たとえば、自分が見つけた興味あるものについてはどんどん大人にアピールする反面、おとなが話しかけたり誘ったりするものには全く興味を示さないとか、決して「うん」とうなずいてくれないなどの一方通行性。定型発達の子だと「抱っこして!」というはずの場面で「抱っこするぅ!」と終止形で言う。帰宅したお父さんを玄関に迎えに出て「ただいま」と言う、など。「マイペース」と見ようと思えば見えるけれど、どことなく気になる感じがいろいろあります。

ことばの出始めが遅れがちとはいえ、しだいにことば数が増え文章も話すようになるので、多くの親ごさんは安心してしまい勝ちですが、実は、文章で話すようになるとさらにふしぎさは強まります。
お家の人に対してです・ます調のていねいなことば遣いで話す。
「自転車で来た?」と質問すると「できた」と答えるなどことばの一部分をとりあげて反応する。
複雑な文章を話すのだけれど、借りてきたセリフのようで感情がこもらない。
初対面の人に妙になれなれしく話しかける、など。
これらはことばやコミュニケーションの困難さの特徴的な現われです。

幼稚園・保育園や学校などの集団生活では、その困難さが噴出します。
みんなと一緒の行動が苦手。先生の指示が聞けていない。一人で砂場で遊んでいるのを友達が呼びにいくと食ってかかったり。一貫して持ち続けている感覚過敏のために、静かな授業中より騒がしい休み時間や掃除の時間がつらい。一方、機械的な記憶にすぐれていて、興味の向かう教科では非常によい成績を上げたりもします。

質問されると関係のないことにまでどんどん話が広がって収拾がつかなくなるのもよくあることです。たとえば、「エビ」についての学習をしているときに「エビ」と答えたところまでは良かったけれど、「このエビはひげの形からいって○○エビだと思う。カニも色によって種類が分かれていて・・・カニ漁の方法はどうでこうで、収穫量はどこの国が多くて、その国の特産物は何で、雨量はどうで・・・・」と延々話しつづけ、周りの子たちが辟易しているのにも全く気づかない、という状態。

長じるにつれて、幼い時期の強い緊張は徐々に取れても、体の動きがぎくしゃくして博学な割りに不器用だったり、人が気にしている弱点をズケズケと指摘したり(髪の毛の薄くなっている職場の上司に向かって「ハゲてますね」)、ことばをその意味の通りに受け取ってトンチンカンな行動をする(外回りから汗だくになって戻ってきた同僚が「暑い暑い、今日は一体何度なんだ!」というと、温度計を見に行って「28度です」という)など。また、何でもない場面で、急に怒鳴り出すこともあったり。

どの年齢においても、何となく気になる、どこかがちがう、イライラさせられることの多い、理解しがたい存在、と言えるでしょうか。物知りだったり、計算が速かったり、すぐれている面も持ち合わせているために、障害特性に気づいてもらいにくく、生意気、無作法、空気が読めないやつ、と誤解されることの多い人たちです。

 

アスペルガー症候群の人たちの不可解な行動は、多数派との「生理的な仕組みの違い」から生まれています 

まず最初に「アスペルガーの人たちは、多数派・定型発達の者たちとは違う生理的な仕組みを持っている人たちなのだろう」と想像することをおすすめします。脳の仕組みで言うと、線が細くてうまく電気を通さない電線や、逆に電気を通しすぎる電線があったり、途中で混線して本来伝わるべき所と違うところに信号が行ってしまったり、電球が過剰に明るく光ったり、逆に暗すぎたり、一つだけ光ればいいところで5個も10個も光ってしまう・・・・のように、です。

脳のそういう働き方の特徴は、誰のせいでもありませんし、他の人と脳を取り替えることもできません。脳の働き方の特徴のために、実際には小さな音が耐え難い大きい音に聞こえたり、教室に一緒に帰るために手をつなごうとしてくれた友達の手の触感が花を生ける剣山の鋭い針のような痛みに感じられたり、人と目を合わせると相手の目が気になって声が聞こえなくなる、という状態に陥っている可能性があります。実際、最近よく目にする当事者の手記やサイトでは、そういった感覚の違いや、外界のとらえ方の違いについて詳細に説明してくれているものが多くあります。

 

ことばやコミュニケーションの困難とその支援

ことばやコミュニケーションについては、次のようなことが共通する困難さとしてあげられます。どう考えどう支援できるかあわせて考えてゆきます


1)聴覚、視覚、触覚、味覚、姿勢や体の動きなどの感覚が非常に敏感または鈍い。

隣の子が消しゴムをことんと落としただけなのに突然その子に殴りかかったお子さんがありました。本人としては、突然耳の横で雷のように大きな音を立てられたためのびっくり反応だった可能性があります。

支援 
事前に覚悟しておくと我慢できることも多いので、なるべく事前に予告してから行動を起こします。「抱っこするね」といってから抱っこする。「靴を履くよ」と予告してから靴を履かせる。

起きてしまったことに関しては「大きな音がしてびっくりしたね」と気持ちに共感し、「消しゴムが転がっただけだからたたかなくても大丈夫だよ」と本人を落ち着かせ、「ごめんね」と一緒に相手の子にあやまります。

2)一度に一つの感覚チャンネルしか働かない。

目で見て同時に耳で聞くことがとてもむずかしい。目を合わせると目が気になって相手の話が理解できないから目をそらしている、と話す当事者が多くいます。注意の向け方をうまくコントロールできないためかもしれません。

支援 
余分なものが目に入らないよう部屋をすっきり片付けることや、音の環境を静かにして一度にひとつの声だけが聞こえるようにしてあげることも大事です。

ジェスチャーや絵カード、指で指して示す、名前を呼んで注意をひきつけてから話しかけるのも大切な配慮です。

 

3) 聴覚だけでの理解は難しい。

音声によることばはすぐに消えてしまう情報なので、ことばだけで理解するのは彼らならずとも、とても難しい課題です。
レストランで食後のデザートを選ぶ段になって「マスカルポーネチーズのババロアと、クランベリーとラズベリーのフレッシュクリームタルト、ショートケーキアラメゾン、キャラメルナッツシフォンケーキの中からおひとつお選びください」と立て板に水の調子で言われたら多くの人は途方にくれるでしょう。それと似ています。

支援 
メニューを見ながらだったらデザートを選ぶことはたやすくなるはず。できるだけ視覚的な手がかりを利用します。

一日のスケジュールを書いたボードを持つことで落ち着くお子さんは少なくありません。

靴を入れる場所をシールで示すこと、着替えを入れる場所にも「パンツ」「シャツ」「靴下」などの絵を添えてみます。こういうことで楽になるのは、アスペルガー症候群のお子さんには限りません。すべての子どもに必要な配慮でもあります。

 

4)相手の気持ちを想像することが困難

相手の気持ちを想像することが苦手です。そのこととことばを字義通りに解釈することが合わさって「暑い!何度だ!」→「28度です」という対応になってしまいます。

支援 
通常は暗黙の了解とされる部分もきちんとことばにして具体的に伝えます。主語、述語のある、正しい文章で話すようにします。「外を歩いてきたので、とっても暑いや。今日はきっと温度が高いんだね」

 「そこのゴミ、ポイして」ではなく「○ちゃんの 足の横に 紙くずがあるよ。ほら(と指さす)拾って、くずかごに、入れて」というふうに。

 

5)興味の対象が限られる、こだわりが強い 注意の向け方の偏り

好きなことには熱心に取り組むのに、それ以外のことには全く興味が向かない。従って身につかない。

支援 
不安だから決まりきった安心できるものにすがっているのかもしれません。好きなことを否定せず、好きなことを手がかりに、少しずつ他のものにも興味を広げていけるように、働きかけます。

ミニカーを並べる遊びがマイブームなら、一緒にその遊びを楽しみます。その中で「赤いミニカーをください」とか、「二列に並べるよ」などとやりとりや概念を広げる働きかけもできます。

 

6)周囲のできごとの“意味”が理解できない

食事のときにお味噌汁をこぼしました。

定型発達の子であれば「ひじがお椀にひっかかった」「お椀が倒れた」「お味噌汁がこぼれた」と、時間系列にそって起きた事象を読み取れます。が、アスペルガー症候群の子どもたちに与えられているのはいつも「今」「ここ」だけなので「(ぬれてなかったテーブルに)突然茶色いお湯がこぼれている!」と感じ、「なぜだ!」「何がおきたんだ!」とただもうびっくりして棒立ちになってしまうのです。フキンを持ってきて拭こうという問題解決など思いつけるはずもありません。

毎日がこういう理解できないことがらの連続なので、次に何がおきるのか。不安でたまりません。せめて、いつも同じ道を通るとか、同じ銘柄のお菓子を食べるとか、同じ服で身を包もうとか、壁ぎわでじっとしていようとか考えるのも無理ありません。

支援 
ひとつずつの事態にことばを添えてていねいに説明します。「お椀が、倒れたね」「それで、お味噌汁がこぼれた」「テーブルが濡れたから、フキンで拭くよ」

説明したとしても、毎日新しい事態が起き対応できないことばかりでしょうが、こうして経験をつみ、ことばで整理してもらうことによって行動のレパートリーが増えるにつれて、「これは知ってる」ということがらも増えてゆくでしょう。それが、安心して暮らすことにもつながります。

 何が起きたのかわかっていないのですから「僕は何にも悪くない」のです。こういう場面で厳しく叱ったとしても、「怒られた」「怖かった」という思いだけしか残りません。

 周囲の大人が淡々と確実に「伝える」「教える」という態度でゆらがないことが大事です。

 

7)状況把握が困難  文脈の中での理解ができない 

意味が理解できないことと関係しますが、すべてのことばがローマ字の羅列で伝えられるような感じ、とでも言えばいいでしょうか。

定型発達の人たちは、周りの状況を、相手の気持ちを想像しながら総合的に文脈全体の中で判断できます。先生がきりっとした顔をして大きめの声でshizukaniといえばカニのことを話しているはずはない、とわかります。ところが状況判断ができないアスペルガー症候群の子どもたちにとっては、shizukanishimashou  の中には「カニ」も「西」も「島」も」「ショー」も含まれているので、何が話題になっているのかわかりようがありません。ajisaigakirei の中には「味」も「サイ」も「餓鬼」も「きれ」も「レイ」も含まれているのでアジサイにたどりつけません。

お母さんと夏休みの生活について話をしていたら急に子どもが「ドーナツ、ドーナツ、買って帰ろう」と主張し始めたことがあります。「ナツ休み」の「ナツ」で思いついたんですね!とお母さんと謎解きをしたことでした。

支援 
まず何について話すのか、話題についての見通しを伝え、わかりやすく短いことばで適切につたえます。「みんな聞いて。いい? お口を閉じて、おへそを先生のほうに向けて。はい、静かにします」

 

8)話されていることばの聞き取りと分析能力が不十分

shizukanishimashouの音が電線を通って脳に伝わる過程で、間の子音や母音がどこかに消えてしまうことがあります。接触の悪いマイクを通した声を聞くみたいに、です。

 izuanimashou 伊豆?兄?魔性?

支援 
ゆっくり話してあげれば、たとえ接触不良でも聞きとりやすくなるかもしれません。
また、単語と単語の間を意識的に区切り、どこからどこまでが一かたまりのことばなのかわかりやすく伝えます。「しずかに□しましょう」と。
また、語尾は終止形の方がわかりやすい子もいます。「さあ、みんなで、シールを、貼りましょうね」よりは「シールを、貼ります」という具合。

 

9)みかけよりもずっと理解はできていない

 話が達者だと、いろいろなことが分かっていると誤解されますが、実は言語理解の能力は貧しいことが多いのです。

 発達検査のような限られた場面、限られた題材での応答で仮に能力的に高い数値が出たとしても、実際の生活場面はいろいろな音や刺激や人からの働きかけ、あうんの呼吸、など目に見えない情報が行き交い、錯綜・混乱しています。そういう中を泳ぎ渡ってゆくのは本当に大変なことなのです。

支援  
どこまでが分かっているのか、何が分からないのか、何か困っていることはないか。多分困っているだろうということを前提に、絶えず、子どもにそう問いかけます。実際にことばで問わなくても、表情やしぐさに注意し、「困っている」のサインが見えたら手助けするようにします。

早くから「やらせる」ような指導的かかわりより、徹底的に「支える」かかわりをした方が不安を取り除いてあげられます。一概にはいえませんが、成長してからの心理的安定にもつながるはずです。

冒頭で書いたように、アスペルガー症候群の子どもたちは圧倒的な不安と混乱の中に生きているに違いありません。特に幼児期は過度な感覚過敏も重なって、この世の中は異臭とぎらつく光と不快な音、知らない人たちとわけの分からない出来事に満ちています。幼児期に接する支援者や保護者が、彼らのそういう苦しさに共感し、無理をさせず、大丈夫だよ、と声をかけ、「大丈夫」の陣地を一緒に広げてゆく存在になることが大事なのだと思っています。コミュニケーションは安心感、安全感の中からしか生まれないのです。

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木村順(2004) 育てにくい子にはわけがある  大月書店

ニキ・リンコ 藤家寛子(2004) 自閉っ子、こいうふうにできてます  花風社

尾崎洋一郎他(2005)高機能自閉症・アスペルガー症候群とその周辺の子どもたちー特性に対する対応を考える    同成社

藤原加奈江(2005) 2歳からはじめる自閉症児の言語訓練   診断と治療社

 

2012年追加
木村順(2011) 「発達障害の子の感覚遊び 運動遊び」 講談社
木村順(2011) 「発達障害のある子の読み書き遊び コミュニケーション遊び」講談社

 

掲載誌 (原稿は図形を省略したため、一部改変してあります)

【別冊「発達」30号】
 
アスペルガー症候群の子どもの発達理解と発達援助
 榊原洋一編著  
ミネルヴァ書房 2009年8月

posted by 中川信子 at 22:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑誌寄稿等