ここは中川信子のホームページです。ことばの発達や障害について、
また、言語聴覚士に関連するさまざまな情報を配信していく予定です。

「そらとも」は「この空のもと、いたるところに、志を同じくする友あり」という意味です。
疲れて、ひとりぽっちと思えるときには、空を見あげ、胸いっぱいに元気を補給しましょう。
その曲がり角の先には、きっと新しい出会いと、すばらしいできごとが待っています。

言えない気持ちを伝えたい
発達障がいのある人へのコミュニケーションを支援する筆談援助

   筆談援助の会 編 
   エスコアール出版部
   2008年11月20日発行
   1900円+税

  「閉じ込め症候群」(locked-in  syndrome)ということばをお聞きになったことがあるでしょうか? 脳幹部梗塞などによル全身麻痺で全く動かせなくなった身体の中に知性、理性が閉じ込められている、という意味です。
  高次脳機能障害の一つでST(言語聴覚士)の対象でもあります。
コミュニケーションの方法を模索するのがSTの仕事ですから。

  最近では、実話に基づいた映画「潜水服は蝶の夢を見る」がありました。
主人公はフランスのファッション雑誌「elle」の元編集長。
交通事故にあい、全身麻痺、かろうじて動かせるのは片方のまぶただけ、というlocked-in syndrome状態状態になったのです。
  その元編集長が、病院のSTの手助けを受け、唯一残された機能「まばたき」によってアルファベットをつづり、一冊の本を書く過程が描かれていました。

  また、医学的には「閉じ込め症候群」とは呼ばれないかもしれませんが、周りの人たちが話していることが全部聞こえ、理解できているのに、ことばやジェスチャーなどで表現(発信)手段を奪われている状態があります。
  ずっと以前の映画「ジョニーは戦場に行った」がそれです。
(あらすじ: http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD4512/story.html

  同様に、外見上は重度の知的障害を伴う自閉症と見えるのに、文字による表現の手段を得ると、ほとばしるように、自分の気持ちを伝えはじめる人たちがいます。文字表現の方法はいろいろですが、まとめてFC(ファシリテーテッドコミュニケーション)と言います。

  FCについては、「重度障害のある人がこんなことを書くなんておかしい」「援助者が書かせているに違いない」「いんちき」「コックリさんみたいなものだ」という批判が長らく浴びせられてきました。確かに、中には、不確かなものもあったようです。

  しかし、日本の各地で自然発生的に、あるいは、セミナーなどを通じてFCを使える人(FCユーザー)は、着々と生まれていました。

 千葉県に住む東田直樹くんが、手を添えてもらうFCから、文字盤を指差す方法、そして、自力でパソコンを打って表現するという方法を手に入れて、「自閉症というぼくの世界」「この地球に生まれたぼくの仲間たちへ」「自閉症のぼくが飛び跳ねる理由」(いずれもエスコアール出版部)などの本を精力的に送りだしてくれるようになって、一挙にFCへの理解が広がってきたように思います。

  ご紹介するこの本は、筆談援助という考え方の解説であり、自分の本当の気持ちをどんどん伝え始めた子どもたち(大きい人もいますが)の実例がたくさん紹介されています。

 筆談で自分の気持ちが伝えられるようになる前のことを思い出して、こんなふうに書いた子がいます。

≪じぶんの こころが つらくて おかあさんに  きいてほしいと おもっても つたえるほうほうがなくて なくことや おこることしか できなくて くるしかった ぼくがくるしいと おかあさんも くるしくなって そんなきもちばかりが ふくらんでいたね≫

また、≪たすけてください ぼく みんなと おんなじように なりたい≫ ≪おかあさん ぼくを みんなとおなじに してください≫と書く子も少なくないと言います。

   FCユーザー本人も「なぜ、こういうことができるのかわからない」というくらいですから、科学的解明はこれからの課題です。

 けれども、もしも、「ほんとうは言いたいことがいっぱいある」のに「うまく表現する手段が与えられていない」状態なのだとしたら、 何とかして、その表現の手段を保障しようと考えるのは当たり前のことだと思います。

  STはなかなか取り組んでこなかったFCですが、私は重度障害と言われる人たちのコミュニケーション保障の一つの可能性を開くものとして、FCに大いに興味を持っていますし、トライしてみようと思っています。

  トライしてみる人が増えること、そこまで行かないにしても、「もしかしたら、この子もたくさんいいたいことがあるのかもしれない」という目で、障害のある子どもたちを見てくれる人たちが増えることを期待しています。

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