ここは中川信子のホームページです。ことばの発達や障害について、
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「そらとも」は「この空のもと、いたるところに、志を同じくする友あり」という意味です。
疲れて、ひとりぽっちと思えるときには、空を見あげ、胸いっぱいに元気を補給しましょう。
その曲がり角の先には、きっと新しい出会いと、すばらしいできごとが待っています。

2008-09-14

インスタントおばあちゃん

 鹿児島―徳之島

 12月に、徳之島に行きました。島内天城町の保健師の「島さん」にお招きを受けまして。島には「島さん」の苗字が多いらしく、「島さん」の上司である保健福祉課長さんからいただいた名刺にも「島」と書いてありました。

噂好きのオバサンの常として、こういうシチュエーションでは名刺を見たとたんに「ご夫婦?」とツッコミを入れるところですが、その前に、「保健師の島さん」は独身だ、との情報を得ておりましたので、ツッコミそこないました。

 なぜ、事前に「保健師の島さんは独身」との情報を得ていたか・・・。

それは、夕方の飛行機で徳之島飛行場に着いたとたんの家庭訪問に始まり、保育所訪問2園、家庭訪問3件、そして講演と、まる二日半に亘って朝から晩まで「島さん」と一緒に行動して、その間にいろんなことを聞きだしていたからです。

 インスタントおばあちゃん

 徳之島空港に着いたときは、日ごろ落ち着きはらっている私もだいぶ動揺していました。なぜなら・・・・

 鹿児島空港で、徳之島ゆき乗り継ぎ便を待っていたとき、3歳、2歳、3ヶ月

の3人の子どもを引き連れている若いご夫婦と一緒になりました。お子さんたちは、飛行機に乗るのが初めてとか。

 そして行きがかり上、離陸のときには

3歳のお嬢ちゃん、着陸のときには生後3か月の赤ちゃんを抱っこするというハメに相なりました。日ごろ「子育てには周囲の支援が必要だ」とあちこちで言い散らしている関係上、せめてこういう場面では実践しないとね。

その赤ちゃんが、また、とてつもなくかわいい、愛想のいい赤ちゃんで、表情

豊か。ちょっとあやすとすぐに天使の笑み。その笑いを見たい一心で、百面相をする私。周辺の座席の人たちは、孫を抱いたおばあちゃんだと思ったみたい。正式にはインスタントおばあちゃん、ですけどね。ドラえもんのポケットから、こういうたぐいの子育て支援グッズも出てくるといいな。

前庭覚(平衡感覚)と、視線の力を実感

それにしても、昔取ったキネヅカとはよくぞ言ったもの。お母さんの手から赤ちゃんを抱きとったとたんに、しっくりする抱き方、赤ちゃんが落ち着いてくれる抱き方を、私の腕が勝手に自動的に微調整してくれます。体が覚えている。

徳之島が近づき、高度を下げ始めた飛行機は、気流の関係で時々ゆれました。ガタガタとか、フワン!とか、どんな揺れであっても、抱いている赤ちゃんがぎゅっと全身を固くするのが、抱いている腕に伝わってきます。

「おお!赤ちゃんは、こんなぐあいに、常に重力を感じているんだ!なるほど、前庭覚(平衡感覚)は大事な感覚。筋緊張と連動していて、姿勢保持に直結しているわけだ」と、感覚統合のリクツを思い浮かべ、ついでに「そうだ、感覚統合についての画期的な本(※)が1月下旬に出る予定だった、楽しみだなー」なんて連想したりして。

揺れの中、赤ちゃんは泣くこともなく、腕の中で私の目をじーーーっと見ています。赤ちゃんってこんなに見るものだったのね、って言うぐらい。

「私の目玉」を見ているのではなく「『私』と『目』を『合わせて』」いるのです。当たり前のことなのに、大感動。

広汎性発達障害(自閉症スペクトラム)のお子さんを持つお母さんたちの中には、赤ちゃんのときから「何かヘンだ」という違和感を感じていて、でも、誰に相談しても、思い過ごしだ、って言われてきたという方がよくあります。2歳3歳になってから「目が合わない」「気持ちが通じ合わない」と訴え、理解してくれる専門家に出会ってはじめてわかってもらえた・・・と。

そうだったのね。この「眼力(めぢから)」が、やーっぱり、ちがう。お母さんたちが「ちょっとちがう」と感じるのは、この眼力のことなのかも、と改めて実感。

 子どもたちとまわりの大人たち

そんなわけで動揺する飛行機から降りて、インスタントおばあちゃん体験の興奮さめやらず、まだ少々動揺している私でしたが、お迎えに来てくださった「保健師の島さん」に連れられてそのまま飛行場そばのお宅の家庭訪問。沿道には背丈を越えるサトウキビ畑が連なり、闘牛用の牛を飼っているお家があり。

お訪ねしたお家でもそうでしたが、徳之島では、赤ちゃんに名づけたときに飾った「命名」と書いたきれいなお祝いの紙を壁や仏壇の横に、ずっと貼っておくのだそうです。赤ちゃんが中学生になり高校生になり、紙の色があせてぼろぼろになっても、ずっと。訪問したお宅のお母さんは「私の実家にも、まだ貼ってありますよ」って笑っていました。

徳之島の天城町は合計特殊出生率2.81で全国2位。子沢山のおうちが多いので「命名」の紙が3枚、4枚、5枚と貼ってあるお家はざらなのだそう。

どこに行っても子どもがたくさん。子どもがいるのが当たり前の風景。近所の子、親戚の子、入り混じって遊んでいて、障害のある子がいつの間にかご近所のお家に行ったりするのも想定の範囲内。適当に世話したり遊んだりして、ころあいを見計らって連れてきてくれるのも、当たり前のこと、と聞きました。

保育所を訪問しても、なんとも人懐こい子どもたち。子どもの中で育ったらしい天真爛漫さと、要領のよさと。

いいことばかりではない、影の部分もある、と保健師さんはおっしゃっていましたが、私たちが都会で失ってしまったものがまだたくさん残っているみたいで、体は疲れたけれど、心に活力がみなぎるような、とても貴重な徳之島体験でした。また島に行きたいと思っています、島さんに会いに。

※「育てにくい子にはわけがある――感覚統合が教えてくれたこと」木村順  大月書店

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