2009年03月18日

「言えない気持ちを伝えたい  発達障がいのある人たちへのコミュニケーションを支援する筆談援助」(筆談援助の会  エスコアール出版部)

 「言えない気持ちを伝えたい   
  発達障がいのある人へのコミュニケーションを支援する筆談援助

   筆談援助の会 編 
   エスコアール出版部
   2008年11月20日発行
   1900円+税

  「閉じ込め症候群」(locked-in  syndrome)ということばをお聞きになったことがあるでしょうか? 脳幹部梗塞などによル全身麻痺で全く動かせなくなった身体の中に知性、理性が閉じ込められている、という意味です。
  高次脳機能障害の一つでST(言語聴覚士)の対象でもあります。
コミュニケーションの方法を模索するのがSTの仕事ですから。

  最近では、実話に基づいた映画「潜水服は蝶の夢を見る」がありました。
主人公はフランスのファッション雑誌「elle」の元編集長。
交通事故にあい、全身麻痺、かろうじて動かせるのは片方のまぶただけ、というlocked-in syndrome状態状態になったのです。
  その元編集長が、病院のSTの手助けを受け、唯一残された機能「まばたき」によってアルファベットをつづり、一冊の本を書く過程が描かれていました。

  また、医学的には「閉じ込め症候群」とは呼ばれないかもしれませんが、周りの人たちが話していることが全部聞こえ、理解できているのに、ことばやジェスチャーなどで表現(発信)手段を奪われている状態があります。
  ずっと以前の映画「ジョニーは戦場に行った」がそれです。
(あらすじ: http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD4512/story.html

  

  同様に、外見上は重度の知的障害を伴う自閉症と見えるのに、文字による表現の手段を得ると、ほとばしるように、自分の気持ちを伝えはじめる人たちがいます。文字表現の方法はいろいろですが、まとめてFC(ファシリテーテッドコミュニケーション)と言います。

  FCについては、「重度障害のある人がこんなことを書くなんておかしい」「援助者が書かせているに違いない」「いんちき」「コックリさんみたいなものだ」という批判が長らく浴びせられてきました。確かに、中には、不確かなものもあったようです。

  しかし、日本の各地で自然発生的に、あるいは、セミナーなどを通じてFCを使える人(FCユーザー)は、着々と生まれていました。


 千葉県に住む東田直樹くんが、手を添えてもらうFCから、文字盤を指差す方法、そして、自力でパソコンを打って表現するという方法を手に入れて、「自閉症というぼくの世界」「この地球に生まれたぼくの仲間たちへ」「自閉症のぼくが飛び跳ねる理由」(いずれもエスコアール出版部)などの本を精力的に送りだしてくれるようになって、一挙にFCへの理解が広がってきたように思います。

  ご紹介するこの本は、筆談援助という考え方の解説であり、自分の本当の気持ちをどんどん伝え始めた子どもたち(大きい人もいますが)の実例がたくさん紹介されています。

 筆談で自分の気持ちが伝えられるようになる前のことを思い出して、こんなふうに書いた子がいます。

≪じぶんの こころが つらくて おかあさんに  きいてほしいと おもっても つたえるほうほうがなくて なくことや おこることしか できなくて くるしかった ぼくがくるしいと おかあさんも くるしくなって そんなきもちばかりが ふくらんでいたね≫

また、≪たすけてください ぼく みんなと おんなじように なりたい≫
≪おかあさん ぼくを みんなとおなじに してください≫と書く子も少なくないと言います。

   FCユーザー本人も「なぜ、こういうことができるのかわからない」というくらいですから、科学的解明はこれからの課題です。

 けれども、もしも、「ほんとうは言いたいことがいっぱいある」のに「うまく表現する手段が与えられていない」状態なのだとしたら、 何とかして、その表現の手段を保障しようと考えるのは当たり前のことだと思います。

  STはなかなか取り組んでこなかったFCですが、私は重度障害と言われる人たちのコミュニケーション保障の一つの可能性を開くものとして、FCに大いに興味を持っていますし、トライしてみようと思っています。

  トライしてみる人が増えること、そこまで行かないにしても、「もしかしたら、この子もたくさんいいたいことがあるのかもしれない」という目で、障害のある子どもたちを見てくれる人たちが増えることを期待しています。

  

 

 

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2009年03月18日

自閉症者の語る自閉症の世界(5月23日 東京)

  片言程度のことばしかなく、それも、エコラリア(オウム返し)が多く、部屋を意味もなく走り回り、「ウィーーー!」って言いながら、手をたたき、ぴょんぴょん跳ねる自閉症の人を見れば、多くの人は「重い知的障害を伴う自閉症の人だな」って思うでしょう。

  でも、見た目そういう風にしか見えない自閉症の人たちが「周りの人たちが話していることは、一般の人と同じように聞こえ、理解しています。でも、自分でことばを言うことが、どうしてもできない」のだとしたら?

  そういう人たちに発信の手段を保障しようと行われてきたのがFC(ファシリテーテッド・コミュニケーション)や筆談です。

  昨年11月16日にダグラス・ビクレンと東田直樹ジョイント講演会が開かれました。援助者が手を支えて書く、一般的なスタイルの「筆談」ではなく、直樹くんがその場での質問にこたえてパソコンを打ち込んでゆくさまが映しだされ、参加した人たちに大きな印象を残しました。
(11月16日の講演会の様子はhttp://escor.co.jp/gr/dn-forum/に)

  今年5月に、ダグラスが再来日し、東田君を含むメンバーによるシンポジウムが企画されています。私(中川)も、シンポジストの一人として登壇します。

   「不思議」としか言えないけれど、でも、確かにそこに実在するらしいFC(ファシリテーテッドコミュニケーション)を解明し、もっと多くの人たちにチャレンジしてもらいたいものだと願っています。

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公開シンポジウム   【自閉症者の語る 自閉症の世界
 

主催:東京大学大学院教育学研究科 臨床心理学コース
共催:東京大学大学院教育学研究科附属 
        バリアフリー教育開発研究センター(予定)

日時    2009年5月23日(月) 1時半ー5時

会場    東京大学鉄門講堂

定員    250名

参加費  500円

登壇者  東田直樹          高校生作家  
       ラリービショネット     画家
       トレイシー・スレッシャー  セルフアドボケイト
       ダグラス・ビクレン     シラキュース大学
       中川信子          言語聴覚士
       能智正博   東京大学大学院教育学研究科
                   臨床心理学コース准教授
       下山晴彦   東京大学大学院教育学研究科
                    臨床心理学コース教授

 

詳細・申し込みは    http://katari.umin.jp/  をご参照ください。

筆談援助・FCについては、「言えない気持ちを伝えたい」(筆談援助の会 エスコアール出版) が出版されています。  
               

 

 

 

posted by 中川信子 at 00:19| Comment(0) | 研修会 講演 セミナー